変形性股関節症
2021年12月1日、福岡ソフトバンクホークスのキング・オブ・クローザー、デニス・サファテ投手が引退を発表しました。引退の原因は右股関節痛でした。昨年、右股関節痛に対し、人工股関節置換術を受けています。股関節は英語で「Hip-joint」です。新聞等で「臀部、おしり」と訳されてしまいます。テニスのアンディ・マレー選手も同じ股関節の手術をしています。この時も「臀部の手術」と報道されていましたが、「股関節」です。
こういったスポーツ選手の場合はほぼover use(使いすぎ)が原因の変形性股関節症だと思われますが、外来でも変形性股関節症は診察機会の多い疾患です。
股関節は、体重を支える大切な関節なので、痛みが生じ始めると、歩くのにも影響が出て、非常につらくなります。
股関節の構造
股関節は骨盤にある寛骨臼という受け皿と、大腿骨頭という球状の組み合わせによって構成される関節です。
その周囲は、関節包と呼ばれる組織で覆われていて、袋の中は滑液で満たされています。
股関節の特徴としては、球状の骨頭が自由に動かせるので、広い可動域を持っています。
また、両足で立っている際は、股関節にかかる負荷は体重の約30~40%がかかっており、
片足立ちをした場合には、軸足の股関節にかかる負荷は体重の3~4倍になるといわれています。
変形性股関節症の原因
変形性股関節症の原因は、股関節の骨・軟骨がすり減り変形することです。
原因には一次性と二次性があり、股関節の形状には特に異常が見られず、明らかな原因を特定できない場合を一次性変形性股関節症と言います。
二次性変形性股関節症とは下記のような原因が主となります。
1.臼蓋形成不全
寛骨臼の形に異常があることが原因です。寛骨臼が浅いので、骨頭を覆う面積が少なくなっています。
2.外傷後によるもの
交通事故や、スポーツにより、長い期間を経て、変形関節症に移行した場合。寛骨臼の形には異常がありません。
3.前方インピンジメント症候群によるもの
股関節の前方インピンジメント症候群により、寛骨臼に変形が生じる場合。
これまで日本人の変形性股関節症の原因の約8~9割は「二次性」でしたが、近年の超高齢化社会に伴い、一次性原因による発症も増えてきています。
どちらも結果として、関節の隙間が狭まって、関節の形状が変わってしまう事で発症します。
変形性股関節症にみられる症状
変形性股関節症の症状は、動作を開始するときの痛みや、階段昇降時の痛みなどが見られます。
股関節症が進行していくにつれ、股関節の変形の度合いが強くなるので、外観上の変化が見られるようになってきます。
一例を挙げますと、健側の足で片足起立した場合は、骨盤の高さが左右並行ですが、患側の足で片足起立した場合は、臀部の筋力が低下しているため、骨盤を支えることができず、健側の方へ骨盤が傾いてしまう現象が見られます。これを「トレンデレンブルグ徴候」と言います。
変形性股関節症が進行していくと、明らかな所見で診断がつく場合があります。
変形性股関節症の病期分類
変形性股関節症は以下の4つの病期に分けて考えられています。
この4つの病期に分けることで、診断や治療方針を決める目安になっています。
変形性股関節症の症状は、進行段階によって異なりますが、「変形が強い=痛みが強い」とは限りません。
1.前股関節症
股関節形成に異常がみられていても、まだ関節軟骨が保たれているため、痛みはありません。人により、長時間歩行した後に足がだるい、疲れやすいなど感じることがあります。
2.初期
初期では関節軟骨がすり減り始め、股関節の隙間が狭くなったり、軟骨と接する骨が固くなったり(骨硬化)します。この頃より歩き始め・立ち上がりの際に脚の付け根や太もも・お尻に痛みを感じるようになります。なお、股関節の神経が膝にも分布しているため、膝に痛みが現れることもあります。
3.進行期
関節軟骨が広範囲にすり減り、骨の隙間が明らかに狭くなります。股関節の骨硬化した部分に空洞ができる「
4.末期
関節軟骨が消失して、寛骨臼と骨頭の隙間が完全になくなります。骨頭が潰れることで常に強い痛みを感じて、夜寝ていても痛い状態となります。
上記の病期分類で、個人差はありますが、痛みが強く感じられるのは、進行期股関節症です。
末期の状態では、変形が進行して、関節が動かなくなるので、骨が安定して痛みが感じにくくなることがあります。
ですので、痛みが強くて困る進行期で手術療法になるケースが多いです。
変形性股関節症の治療
前股関節症~初期の段階であるならば、運動療法が効果的です。
股関節周囲筋群のトレーニングを行う事で、痛みをとり、筋力低下を予防することが大切です。大腿四頭筋(太もも)、ハムストリングス(太ももの裏)、殿筋群(おしりの筋肉)、腹筋を中心とした運動を外来でお話しさせて頂いております。
以下はその一例です。
手術(関節鏡手術・骨切術・人工関節置換術)
保存的治療を行っても改善せず、痛みで歩けないなど日常生活に支障を来している場合には、手術を検討します。股関節の変形具合に加えて、患者さんの年齢や体力・どこまでの回復を希望するかなどを伺い、よくご相談させていただいた上で選択しています。
手術の必要がある場合には、適宜近隣の対応病院をご紹介させていただきます。
変形性股関節症の予防
変形性股関節症は、立つ・しゃがむ・歩くといった生活動作によって股関節にかかる負担が蓄積していくことで次第に悪化していく病気です。
日常生活では、次のような点を意識すると良いと思います。
- 太もも・お尻など股関節周辺の筋トレやストレッチで股関節の負担を軽減させる
無理のない範囲で大腿四頭筋、殿筋群を鍛えたり、股関節の動きを大きくするストレッチを行ったりしましょう。
- 有酸素運動で体力の低下を防ぐ
「水中運動」がおすすめです。水中では浮力を活用できるため、重力による体への負荷や関節・筋肉への負荷を軽減することができます。平泳ぎを除く水泳(股関節への負荷が大きい)や水中歩行など少し疲れる程度の運動(目安:約30分×週2~3回)を行うと良いでしょう。ネックは習慣的にプールに行かなくてはいけないと言うことでしょうか。 - 肥満を解消し、適正体重を保つ
軽い運動などを取り入れて、減量するようにしましょう。できれば現体重の-2%を目指しましょう(70kgの場合は-1.4kg)。あわよくば-5%減量を。 - お風呂で体を温めて血行を良くする
39~40℃くらいのぬるま湯にゆっくり浸かるのがおすすめです。 - 和式の生活スタイルから洋式の生活スタイルへ変更する
正座・あぐら→椅子に、和式トイレ→洋式トイレといったように股関節の負担を減らしましょう。 - 歩くときはゆっくり歩き、15分程度歩いたら休憩する
変形性股関節症の手術を行うかどうかは、さきほど述べたように股関節の変形具合に加えて、患者さんの年齢や体力・どこまでの回復を希望するか、で選択しています。
痛みが強くて眠れない、痛みのために活動性が低下している方などには手術が適応されるかもしれませんが、レントゲンで病期が進行していたとしても、手術をせずに運動療法を継続することで、日常生活を送ることができる方もいらっしゃいます。
股関節の痛みについて疑問点がある方などがいらっしゃいましたら、お気軽にご相談ください。