院長コラム

PPKとフレイル

「フレイル」という言葉をご存じでしょうか。
人間は皆、例外なくトシを取ります。
「トシを取る=高齢になる」と、さまざまな心身機能の低下が起きます。
一定以上低下した場合、社会的支援を受けることになります。
この状態が、「要介護」という状態です。
「フレイル」はその過渡的な段階、健常と要介護状態の中間的な状態を指します。

フレイルな状態で起きやすいこととはなんでしょうか。
ざっくり列挙すると以下のようになります。
①口腔・咽頭機能の低下
②歩行機能の低下
③認知機能の低下
④気分(意欲低下、うつ気分)
⑤排泄機能の低下
これらは、日常生活の自立能力障害であり、低下していくにつれ要介護に向かっていきます。
簡易フレイルインデックスというものがあります。

簡易フレイルインデックス

□6ヶ月間で体重の減少が2~3㎏ありましたか?
□以前に比べて歩く速度が遅くなったと感じますか?
□ウォーキングなどの運動を週に1回以上していますか?
□5分前のことを思い出せますか
□ここ2週間、訳もなく疲れたような感じがしますか?

3つ以上該当:フレイル
1~2つ以上該当:プレフレイル

皆さんはいかがでしたでしょうか?
「人生100年」と言われていますが、重要なのは「元気な高齢者でいること」と個人的には考えています。「ピンピンコロリが良いわあ~」という言葉を外来において耳にすることがあります。PPK(ピンピンコロリ)には、今や医療者側と患者さん側の努力が必要な時代になってきています

フレイルで重要なのは食事(栄養)と運動の2本立てです。
疾患ではありませんので、薬剤で治療すると言うものではありません。そもそも治療というものではなく、予防ですね。

1.フレイルと栄養介入

フレイルの最大要因は栄養の偏りや低栄養を基盤として進行する筋肉減弱(サルコペニア)です。今後は単なる寿命の延長ではなく、自立した状態での生活時間を延ばす、すなわち健康寿命の延伸(元気な高齢者であること)が期待されています。元気な高齢者であることを考える上ではフレイルの予防が必要であり、栄養・運動の介入は重要な役割を担っています。

加齢に伴う多くの生理的・社会的、経済的問題が栄養状態に影響を与え、低栄養の原因となっています。
高齢者の低栄養の原因を列挙します。
1.社会的要因
独居、介護力不足・ネグレクト、孤独感、貧困
2.精神的心理的要因
認知機能障害、うつ、誤嚥・窒息への恐怖
3.加齢の関与
嗅覚・味覚障害、食欲低下
4.疾患要因
臓器不全、炎症・悪性腫瘍、疼痛、義歯などの口腔内問題
薬物の副作用(多剤併用)、咀嚼・嚥下障害
日常生活動作障害、消化管の問題(下痢・便秘)
5.その他
不適切な食形態、栄養に関する誤認識、医療者の誤った指導
(葛谷雅文;低栄養 大内尉義他編、新老年医学 第3版、2010;579~590)

具体的にフレイルの栄養介入とはどういったものなのでしょうか。
① エネルギー摂取量
まずはエネルギー摂取量が大きな要素です。
摂取量が少なければ、個々の栄養素の充足も困難となります。後期高齢者においても適切なエネルギー摂取が必要です(しっかり食べることが大事)。
過栄養(BMI:30以上)もフレイルに関連していますが、我が国においては低栄養(低BMI)の回避が重要な課題になっています。
後期高齢者といえども、疾患による制限のない方は積極的に炭水化物を摂りましょう(糖尿病や脂質異常症などで通院中の方は主治医と相談しましょう)。身体活動量を増加させるためにも摂ることが必要です。
2.タンパク質
骨格筋量、筋力、身体機能にはタンパク質の摂取が重要です。高齢者では1.0g/kg体重/日以上のタンパク質を摂取することが望ましいと考えられています。ただし、高齢になると腎機能が低下した方も多いので個々の病態に応じて摂取量の設定が必要になります。
3.ビタミンD
低ビタミンDはフレイルの発症リスクになります。ビタミンDサプリメントの摂取は身体機能や筋力を向上させ、転倒や骨折のリスクを下げる可能性が示唆されています。
(J bone Miner Res 2003:18:343-351,Exp Gerontol2006;41:746-752)
ビタミンDは紫外線を浴びることにより皮膚でも産生されるため、食事のみでは摂取困難なビタミンDについてはサプリを利用するのも良いですが、適度な日光浴が有効な手段でしょう。
4.抗酸化ビタミン
高齢者では加齢に伴いフリーラジカル産生が増加し、種々の臓器障害に関連しています。抗酸化に関連するビタミンではあるビタミンE及びCは、活性酸素の産生や脂質抗酸化反応、アポトーシス、タンパク質の酸化、細胞膜の損傷などを阻害する作用があると言われています。しかしながら、まだ文献の蓄積が不十分ですので、「摂らないより摂った方が良い」、くらいの考えで良いと思います。

2.フレイルと運動介入

フレイルにおける運動介入の前に骨格筋について少し。まず、骨格筋は成人男性で体重の40%、成人女性では35%を占める生体内では最大の臓器・組織です。
骨格筋は収縮の特徴から2種類の筋繊維に分類できます。
① 収縮速度は遅いが、持久力に優れる遅筋(slow-twitch:ST typeⅠ)線維
② 大きな収縮力はあるが、持久力が低い速筋(fast-twitch:FT typeⅡ)線維
速筋線維はさらに持久的能力を持つFTa線維と持久能力は乏しいが瞬間的収縮力に富むFTb線維に区分されます 。
加齢に伴い、高強度の運動機会は減少していきます。筋線維の働きは、運動強度が増すにつれて遅筋から速筋と動員されていきます。すなわち加齢に伴う筋線維の減少は、速筋線維に顕著に認められます。また、加齢による筋萎縮の特徴として、筋繊維の萎縮にとどまらず、筋線維数の減少があります。筋線維数の減少も速筋線維に顕著であり、骨格筋全体が遅筋化することを意味しています。
(ちなみに長期ベッド療養などの廃用筋萎縮は、筋線維数の減少は認めず、遅筋の萎縮が顕著です)
今回、運動介入として考えているのは軽~中等度のフレイルです。なぜならば、運動介入効果が認められるのは軽~中等度のフレイルだからです。残念ながら重度のフレイルには効果が見られません。重度のフレイルとは、ほぼ介護状態と考えて良いでしょう。我が国のフレイルは軽~中等度のフレイルが主と考えて良いので、フレイルインデックス1~3個該当する方は、積極的に運動介入した方が良いと考えます。

最近の研究報告では、低強度の筋力トレーニングであっても高齢者の筋肥大に効果を及ぼすと言われています。筋肥大の効果は強度が低くても回数を多く行うことで、高強度の筋力トレーニングと同等の効果が得られ、筋線維タイプの違いによる肥大のさも認められませんでした。
低強度でも段階的に回数を増加させることによって高齢者の筋肥大あるいは筋萎縮の抑制が期待できるのです。特に低強度であっても、負荷の上げ下げを3秒以上かけて行うスロートレーニングにより、高齢者の筋肥大効果を認めたという報告があります(文献上は59~76歳)。スロートレーニングは血圧を上昇させずに行えるので循環器系疾患を抱える高齢者の筋力トレーニングとして注目されています。
スロートレーニング→eヘルスネット(厚労省)
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/exercise/s-04-003.html
ハマトレ→よこはま健康スタイル(ハマトレ)
https://enjoy-walking.city.yokohama.lg.jp/walkingpoint/movie/

こういった運動を通してフレイル→要介護にならないように努めていきましょう。
むろん、今、なにか運動をされているかたは楽しみながら継続していただけたらと思います。

参考文献;
※Neither load nor systemic hormones determine resistance traiing-mediated hypertrophy or strength gains in resistnce-trained young men. J Appl Physiol(1985)2016;121:129-138
※Light-load resistance exercise increase muscle protein synthesis and hypertrophy signaling in elderly men. Am J Physiol Endocrinol Metab2017;312:E326-338
※筋におけるアンチエイジング 抗加齢医療-その最前線の実際(新興医学出版;2010:206-209)

 

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