「膝の水は抜くとクセになる!!」は間違いです。
外来で多く聞かれる質問の1つに「水を抜くとクセになりませんか?」があります。
答えから言うと、「炎症が起きてるので水が貯まるのであって、水を抜くこと自体に問題はありません」です。
むむ。なにやら禅問答のような答えです。
膝に水がたまるといいますが、なぜ膝に水がたまるのでしょうか?
そもそも、その「水」ってなに?
健康な膝は、関節液という液体で満たされています。
関節液は軟骨に栄養を与えたり、関節が動くときのすべりを良くする働きがあります。
また、関節にかかる圧力を分散させる働きがあります。
膝の中でどんなことが起こっているのでしょう。
下図を参考にしてください。
健康な膝では、滑膜の中にある毛細血管から関節液が分泌され、関節軟骨に栄養分が渡されます。関節軟骨は、栄養分を受け取ると、基礎代謝物(老廃物)を関節液の中に分泌します。
一定量以上の関節液は基礎代謝物を伴ってリンパ管の中へと吸収され、関節包の中の関節液の量は一定に保たれます。
ところが、加齢や外傷(ケガ)などによって関節表面の軟骨がすり減ると、軟骨表面のすべりが悪くなってきます。そうすると、滑膜が炎症を起こし、本来あるべき量以上の関節液を分泌するのです。
結果、関節液の吸収が追いつかなくなり、関節包に関節液がたまってきます。
膝に水がたまったというのは、こういう状態です。
水の正体は炎症を起こした関節液というわけです。
膝に水がたまるとどうなるのかというと、赤丸で囲んだ部分のように腫れてきます。
膝のお皿の上、膝蓋上嚢という部分は膝の関節の上にあり、ゆとりがあるので、そこに水がたまりやすくなっています。診察時に、膝のお皿の上から押してみると、お皿が浮き上がってくる感じがあります。この浮き上がり感があれば、水がたまっています(膝蓋跳動)。
左右の膝のシワの数でも比較できます。
では、このように水がたまった場合にはどうすればいいのでしょうか。
対症療法としては、包帯で圧迫する、氷で冷やすなどの方法があります。
変形性膝関節症は、慢性的な痛みになる場合が多いので、保温に努めた方が良いでしょう。
外傷由来でも膝の動きは悪くなっていることが多いので、慢性的な経過の場合は温めた方が良いです。
そこで「水を抜くとクセになりませんか?」です。
注射によって水を抜くという治療自体がクセになるわけではなく、注射で水を抜いたとしても、関節内の炎症が治まらず関節液が出続けるので、関節液がどんどんたまり、また膝が腫れるということになるのです。
つまり、炎症が治まらないことが問題なのであって、注射で水を抜くこと自体に問題があるのではありません。
最優先に考えなければならないのは、炎症を抑えることです。
炎症を抑えるためには、減量に取り組む、大腿四頭筋周囲の筋力訓練をする、関節内にヒアルロン酸注射を行う、サポーターをする、などが勧められます。
水を抜くこと自体に治療としての意味はありません(水を抜いたからといって治るわけでは無い)。ただ、水が貯まった状態は、関節内圧が高いので、水を抜くことで内圧が下がり痛みが和らぐために行っています。
怪我などにより、関節内に血がたまって痛い場合も同様です。血を抜いて、関節の内圧を下げることによって痛みが和らぎます。