院長コラム

インフルエンザの治療について

インフルエンザの予防接種については別記事「インフルエンザの予防接種」を参照ください。
ただ、あらかじめお話しておきたいのは、インフルエンザについては常々、薬がどうこうというよりも、予防が大事!!です。
とにかく、「ワクチンをうつ」(「インフルエンザの予防接種」を参照ください)。
予防接種の時期も、「10月下旬から11月中旬」が予防接種に最適の時期です。

それを踏まえて、お読みください。
インフルエンザの治療や使用される薬剤についてお話します。

Answers News 2018/9/18より

外来で主に処方されるのは、タミフル、イナビル、ゾフルーザです。
当院でも概ね、その通りになっています。点滴製剤のラピアクタに関しては、主にベッドのある病院や入院患者さん向けと考えています。

抗インフルエンザ薬の作用機序

簡単に説明すると、タミフル、リレンザ、イナビルは、インフルエンザウィルスが体内の細胞に入り、細胞内で増えたあと、細胞外に出ていくところをブロックするクスリです。
ゾフルーザは細胞内での増殖自体をブロックするクスリとなります。

タミフル(オセルタミビル)

世界初の抗インフルエンザ薬。106か国で発売されています。
A型、B型どちらにも有効です。
剤型はカプセルと粉末があります。
1日2回を5日間服薬。
経口投与により、肺・気管支・鼻腔などの感染部位に移行していきます。
発症2日以内の投与開始で、発熱期間を27.4時間(45.3%)に短縮し、罹病期間を23.3時間(25%)に短縮した、と報告されています。
承認時までに調査309例において副反応85例(27.5%)報告されています。
2006年、異常行動の報道が相次ぎましたが、2018年8月、厚労省より因果関係はあるとは言えないと結論、8月22日より、すべての年齢で処方可能になりました。

イナビル(ラニナビル)

本邦のみで発売
剤型は吸入。10歳以上では40mg、10歳未満では20mgを単回吸入。
イナビルは脂溶性で、吸入後、気管・肺の細胞に取り込まれたのち、加水分解され、活性体のラニナビルに変換されると考えられています。

イナビルの気になるエビデンス(医療行為において治療法を選択する際「確率的な情報」として、少しでも多くの患者さんにとって安全で効果のある治療方法を選ぶ際の指針)。
海外で行われた第2相比較試験。Biota社の行った試験です。
目的;イナビルとプラセボで症状軽快までの期間を比較
方法;国際共同無作為化比較Phase2試験。
2013年12月から2014年4月まで世界12か国で施行。n=639
イナビル40mg群、80mg群、無投薬群の治療効果を比較
主結果;症状軽快までの期間に3群間で有意差なし
(102時間vs103時間vs104時間)
この結果を受けて、Biota社は米国等でのイナビル(ラニナビル)開発販売を断念。
その結果のプレスリリース
https://globenewswire.com/news-release/2014/08/01/655382/10092476/en/Biota-Reports-Top-Line-Data-From-Its-Phase-2-IGLOO-Trial-of-Laninamivir-Octanoate.html

もう一つ気になるエビデンスがあります。
イナビル承認時審査議事録より
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000xvng.html
その中から一部抜粋。

○庵原委員 インフルエンザウイルスは肺で増えるのではなくて、季節性インフルエンザウイルスは主として上気道で増えるのです。その薬を肺に吸入してなぜ効くのですか。要するに、上気道に残らずに下気道へ入ってしまったら、H1N1の2009年のパンデミックみたいに肺で増殖しやすいウィルスならばそれでいいのですが、一般的には上気道で増殖して症状が出るのがインフルエンザであって、下気道では増殖しないのです。ですが、これは肺で吸入して効くということは、上気道でどれだけ効いているかということが説明がつかないと思います。
○機構 先ほどの私の表現が適切ではなかったのかもしれませんが、吸入投与することにより、どの辺りに分布するか、ヒトにおける検討は厳密にはやっていないのですが、粒子型によって、吸入後どの気道、肺の奥のどこまで到達するかをコントロールしています。
類薬にリレンザがあって、そこでは放射性同位体を使ったヒトでの検討で、どの程度の粒子型だと、どの程度に分布するかというのは検討が行われています。今回、製剤を設計するに当たっても、その知見を参考に、気道から肺に分布するような粒子型を設計して、製造上コントロールしております。ですから、ヒトでの実際の分布のデータはありませんが、リレンザと同等の分布を期待しています。
○庵原委員 分布を期待するのはいいのですが、データがないのに期待できますか。
○機構 品質の観点からは製剤、どの程度分布するのかを規格試験で設定して管理しているのですが、吸入剤から陰圧をかけて吸い込んだときに、その粒子が吸い込んだ所からどの程度の距離まで到達するかの分布を測定する機械で、一般的にカスケードインパクターという装置があるのですが、それによって分布を計測しております。それで目的の所まで到達することを管理して、期待しているということを保証しています。
○庵原委員 それだと下気道にどれだけ飛ぶかで、それは喘息の薬の考え方です。インフルエンザウイルスは下気道ではなくて、上気道で増えるわけで、上気道にどれだけ残るかが逆に問題なのです。そのデータがなくて、下気道、下気道と言ってしまうと、本当にこの薬剤はどこで効いているのですか。要するに肺で直接効いているのではなくて、そのほかのメカニズムで効いているということを考えないと説明がつかないのではないですか、という質問です。
○吉田部会長 わかりますか、上気道というのは気管ではなくて喉です。
○庵原委員 インフルエンザの迅速診断は後鼻腔から取りますので、そこにウイルスがいるということを証明しているわけです。そこに薬が行ってもらわないと効かないのではないですか。
○機構 薬剤の分布については、確かに先生が御指摘のとおり、どこに分布したかという具体的な実際のデータはありません。それは放射性ラベルをしない限り、検討は厳密には難しいと思います

上記のやり取りより、イナビルの承認にはかなりグレーな部分があったと言わざるを得ません。有効性のエビデンスという意味では他剤に比較すると「乏しく」、積極的に処方するのには、個人的な考えですが、やや抵抗があります。

ゾフルーザ

2018年発売。
剤型は錠剤。1回の服薬で効果。
ゾフルーザのエビデンス
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30184455
目的ゾフルーザの優越性をプラセボ・タミフルで比較
対象;12~64歳の有症状患者さん、初回発熱から48時間未満。
結果;ゾフルーザはプラセボに比べてインフルエンザ諸症状を26.5時間短縮しました。
ゾフルーザはプラセボ、タミフル群より速やかなウィルス排泄量の減少を示しました。

1回の服薬で治療終了というのは患者さんの利便性向上という点で評価される薬剤だと思います。

もういちど、抗インフルエンザ薬の作用機序。
ゾフルーザ登場前の薬剤(タミフル、リレンザ、イナビル)は、インフルエンザウィルスが体内の細胞に入り、細胞内で増えたあと、細胞外に出ていくところをブロックするクスリ、ゾフルーザは細胞内での増殖自体をブロックするクスリです。

ゾフルーザは上記の作用機序からウイルス検出期間が短縮されると言う効果があります。
つまり、増殖自体をブロックしてくれるので、インフルエンザにかかってもウイルスが早く体内からいなくなってくれる効果がある。ということです。
しかし、意外にそうでもないというデータも出てきました。

「症状が改善するまでの時間はタミフルと大差ない」。というデータです。
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1716197
こういった論文を読むと、効果は限定的なのかもしれませんという結果になります。

また、細菌に対する抗生物質もそうですが、ウイルスは薬(抗ウイルス剤)に対して抵抗力を獲得することがよくあります。
いわゆる「タミフル耐性ウイルス(タミフルが効かないインフルエンザウイルス)」が問題となっています。新薬ゾフルーザも同様です。

https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/special/flu/topics/201901/559578.html
横浜市衛生研究所を中心とする研究グループは、今回のゾフルーザ耐性株検出について、欧州疾病予防管理センターのEurosurveillanceに報告しています(Eurosurveillance 24(3),17/Jan/2019)。その中で、I38T変異を持つウイルスは、「ゾフルーザ投与3日後の児童から単離されたもの」と結論しています。

また、新薬というのは臨床試験ではわからなかった副作用が新たに判明することが多々あります。特に「ゾフルーザ」は、作用機序がこれまでの薬と違うという点で、副作用についても新たなものが今後判明する可能性は否定できないと思われます。
それゆえに、新たな情報に気を配りつつ、処方する必要があります。

上記を踏まえた結果、インフルエンザ感染の際の治療薬はなにを使うかというと、一医師の個人的見解として、「ゾフルーザを積極的には推奨しません。タミフルをベースに使います」、となります。
もちろん、診察時に説明したうえで何を服用したいかは患者さんの自由です。

しかしながら、もう一度言いますと、インフルエンザについては常々、薬がどうこうというよりも、予防が大事です。
とにかく、「インフルエンザ予防接種ワクチンを打ちましょう」、です。

それでもインフルエンザにかかってしまったら、「安静・休養・栄養」です。
抗インフルエンザ薬の効果は、「発熱などの症状を半日~1日程度早く治してくれる」というくらいの限定的なもの考えましょう。すぐに元気になり、学校や会社に行けるようになるわけではありません。

2014年4月にCochrane reviewで季節性インフルエンザのRCTのメタ解析で、タミフル処方元のロシェ社から未公開だった臨床データも含めて全ての症例のデータ解析を行った結果、タミフル使用は有症状期間が7日から6.3日に0.7日短縮されるという結果しか出せなかった一方で、未成年では有意な効果は無く、肺炎や入院などの合併症も減らさず、副作用は5%程度でるなどの惨憺たる結果でした。
Cochrane Database of Systematic Reviews 2014, Issue 4. Art. No.: CD008965. DOI:10.1002/14651858.CD008965.pub4

WHOは、重症インフルエンザ患者でしかも非季節性インフルエンザ患者にしかタミフルを推奨していません。
「季節性インフルエンザには原則ワクチンでの対応が基本」
https://www.who.int/en/news-room/fact-sheets/detail/influenza-(seasonal)
なのです。どちらかというと、季節性インフルエンザに抗ウイルス薬を処方している日本は世界的に見ても特殊な状況のようです。
それをみなさんにも知っていただきたいと思います。

最後に、おまけ。
インフルエンザのときの解熱剤はロキソニンなどのNSAIDsは使いません(脳炎を引き起こすと言われています)。 アセトアミノフェンという薬を処方します。
商品名でいうと「カロナール」です。
実はこのアセトアミノフェンは、病院でわざわざ処方箋をもらわなくても薬局で買うことができます
土曜日の夕方や日曜日、「診療所があいていない!!」「休日診療所の戦場さながらの外来に行くのはちょっと・・・」というときの参考にお使いください。
もちろん、薬剤師さんと相談しながら使ってみてください。
商品名:ノーシンAC(1錠中アセトアミノフェン150mg)
商品名バファリンルナJ(1錠中アセトアミノフェン100mg)
商品名小児用バファリンCⅡ(1錠中アセトアミノフェン33mg)

 

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