変形性膝関節症のお話
変形性関節症は、関節軟骨の変性によって関節機能に障害を起こす疾患です。
なかでも、膝は中高年者における頻度が高く、日常診療でも多い症例の一つです。現場では、病歴及び診察所見、レントゲン画像から診断します。
変形性膝関節症の初期の変化は関節軟骨の表層からの変性摩耗です。関節軟骨は「硝子軟骨」と呼ばれる緻密な軟骨からできています。その主成分は、II型コラーゲンとプロテオグリカンです。このため、軟骨は重量の70%前後という多量の水分を含んでおり、弾力と潤滑に富んでいるわけです。摩擦係数は0.002~0.02と人工物では考えられない驚異的な数字です。
疫学
現在の日本では女性の患者さん数が多いです。2011年のデータでは女性1670万人、男性860万人となっています。
原因・危険因子
- 加齢:50歳以上からリスクが急上昇します。
- 体重:肥満は密接に関係しています。
- 性差:女性は、ホルモン量や筋量の関係からなりやすいです。
- 職業:男性において膝を頻繁に曲げ伸ばしする職業はリスクの一つ。
- スポーツ:セミプロ以上のスポーツはリスクの一つ。
- 骨密度:骨密度が高いほうが(!)リスクと言われています。
- 外傷:過去に外傷歴のある膝はリスクを高めます。
症状
自覚症状は疼痛です。安静時痛ではなく、歩行時や階段昇降時などに生じる運動時痛が主となります。
初期は、朝の起床時や長時間休憩後の動きはじめに感じる痛みやこわばり。しばらく歩いたり、動くと軽快します。天候に左右されることもあります。
進行すると、長距離歩行や階段昇降などが困難になり、安静時痛や夜間痛が出現します。時に膝の熱感を伴ったりすることもあります。
正常ではごく少量の関節液が、関節の炎症により、いわゆる「膝に水がたまる」状態になることがあります。
膝が伸びない、曲げられない(正座ができない)などの関節可動域の制限が生じ、結果、日常生活に支障をきたすことになる困った疾患です。
末期には、膝の内反変形(いわゆるO脚)や外反変形(X脚)が明らかになります。日本人は内反変形が多いです。
変形性膝関節法のグレード評価
治療
- 運動療法
- 薬物療法
- 外科的治療
1.運動療法
日常生活・運動指導
膝関節に過剰な負荷がかからないような配慮しましょう。膝関節をあたためて、血行や柔軟性を改善します。
悪化する膝関節痛運動により増悪する疼痛がなければ、安静にする必要は全くありません。
運動・体操により筋力強化、可動域改善や肥満に対する減量を行います。
【減量についてはこちら】
日常生活の中で、継続的に無理のない適度な運動や体操を実施することで、膝の関節機能の維持をすることがとても大事です。
ウォーキング、自転車、水中歩行や、アクアビクスは有効でしょう。ご高齢患者さんのウォーキングの場合は、3日/週以上、持続時間は35分以上が望ましいです。なかなか継続することは難しいと思いますが、苦しいと思ったら休憩も大事です。
自宅で行える筋力訓練
主に大腿四頭筋、股関節外転筋の筋力強化を行います。ハムストリングス(太ももの裏)や股関節内転筋も併せて強化すると有効です。
2.薬物療法
いわゆる痛み止めです。痛みを軽減させますが、関節を再生させるわけではありません。漫然と使うことはお勧めしません。
現在の薬物療法は
- 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDS)
- アセトアミノフェン
- オピオイド
- 外用薬(しっぷ)
- 関節内へのヒアルロン酸注射
- 関節内へのステロイド注射
があります。それぞれに一長一短がありまして、
NSAIDS
立ち上がり早いですが、胃腸障害の副反応のリスクを抱えるので長期連用は向いていません。
アセトアミノフェン
安全面はNSAIDSに比べ消化器系のトラブル頻度は少ないですが、疼痛緩和効果がNSAIDSの1/2ほどです。
オピオイド
欧米のガイドラインでは疼痛緩和と機能改善に大きな効果があると言われており、薬剤抵抗性の変形性膝関節症には推奨されています。しかし、NSAIDSにくらべて有害事象発生する確率が3~6倍と高いです。使用に際しては、主治医とよく相談して決めることが大事じゃないかと考えています。
ヒアルロン酸関節内注射
変形性膝関節症では、関節内滑液中のヒアルロン酸濃度が約半分になり、分子量も低下するため、関節内への直接注射は粘性・弾性を増加させ、疼痛発生の原因である機械的刺激が軽減され、ひざ痛が軽減されます。
ヒアルロン酸には抗炎症作用や軟骨破壊抑制作用及び抗侵害性疼痛効果なども報告されており、現在の薬剤のうちで唯一、変形性膝関節症の病態を修飾できる薬剤と言えます。
ただし何度も膝に水がたまる症例ではヒアルロン酸単独では治療効果の期待はできません。
ステロイド関節内注射
短期間であれば疼痛緩和に有効でありますが、長期には有効性の根拠はほとんどありません。なおかつ、感染症の原因になったり、骨壊死の原因になるので投与間隔を2週間以上開けたほうが良いです。当院では、あまり推奨していません。
3.外科的治療
いつ、手術を考慮すべきでしょうか?
疼痛の頻度が増し、日常生活に支障が出るようであれば、専門医の診断を受ける必要があります。以下に示す項目のいずれかに該当する場合は、専門医の診察をお勧めします。
- 膝関節の痛みがほぼ毎日ある・・・。
- 長時間の歩行、階段昇降、しゃがみ込み動作などの日常生活が困難になってきた・・・。
- 膝関節の腫れを自覚する・・・。
具体的に、どの時点から手術を考えるかについては、患者さんの年齢、活動性、疼痛の程度によって異なります。レントゲン画像のみで手術をするかどうかを決めることは、ありません。痛みが強ければグレードが高くなくても手術します。
強い疼痛が長期にわたり、活動性が著名に低下すると、手術を行っても下肢筋力の回復が思わしくなく、除痛が得られても生活の活動性が回復しないことがあります。「せっかく手術したのに、変わらないんですよ。」ということが起きかねません。
手術のタイミングは、適切な時期に行う必要があります。
(このタイミングが主治医と患者さんの信頼関係といっても過言ではありません)
どんな手術があるのでしょうか?
高位脛骨骨切り術
比較的若年、内反型変形性膝関節症
膝関節外側の軟骨変形が軽度な場合に適応となることが多いです。
人工膝関節単顆置換術
比較的高齢、内反型変形性膝関節症
膝関節内側のみに変形性膝関節症が限局し、前十字靭帯及び後十字靭帯が残存している場合が適応です。
人工膝関節全置換術
適応に限られることがありません。変形著名な変形性膝関節症は絶対的な適応です。長期耐用性も今は10年で95%前後と良好な成績を残すに至っています。ただし、60歳未満の患者さんでは慎重に検討すべきかと思います。
変形性膝関節症でお悩みの場合は、ご相談ください。